初読み作家さんです。Xで読了ツイートをみかけておもしろそうと思い読んでみました。
牛丼屋を出ると、ホストクラブの宣伝トラックが目の前を通り過ぎた。
新宿にある定時制高校に通う生徒たちが主人公。みんないろいろな事情があって定時制に通っている。そんな定時制の生徒を中心に科学部を立ち上げて、天体衝突の研究を始めるというお話です。
科学部のメンバーがそれぞれ全日制には通えない事情があって、苦手なこともあるけれど、他の人にはないいいところがあって、誰もが科学部に欠かせない。ぶつかることもあるけど、ひとつの目標に向けて頑張る姿はとてもまぶしかったです。
けんかっ早くて素行が悪いけど飲み込みが早くて学ぶことの楽しさを知った岳人、SF小説が好きで想像力が豊かな不登校の佳純、フィリピン出身で日本語が得意ではないけどお店の経営など経験が豊富でや人とのコミュニケーション能力が高いアンジェラ、70歳代で他の生徒とジェネレーションギャップがあるけどモノづくりが得意な長嶺。パソコンが得意でデータ解析を手伝ってくれることになった全日制の要。そしてそんな部員をそっと見守り、最小限のアドバイスをしつつ必要な手助けは惜しまない担任の藤竹先生。
「どんな人間も、その気にさえなれば、必ず何かを生み出せる。それが私の仮説です」
p246
学ぶのに遅いということはないし、分からないことを研究する喜びは育った環境や受けた教育に関わらずみんなが味わえるものだということを改めて感じました。
私自身、高校1年生のとき、自分たちの教室が定時制の教室にもなっていたので、居残りしないですぐ帰りなさいと言われていたり、ときどき定時制の学生とすれ違うこともあったので、懐かしいなと思いました。
関係ないけど定時制といえば「白線流し」は今でも思い出す大好きなドラマです。スピッツの「空も飛べるはず」を聞くと自分の高校生時代を思い出しますね。
著者の伊与原さんは、神戸大学理学部卒業後、東京大学大学院で地球惑星科学を専攻し博士課程を修了しているそうです。やっぱり私は理系の作家さんが書いた、科学の知識に基づいた小説って好きだなあと再認識しました。
また、あとがきに書かれていましたが、この作品で書かれていた研究は、実話に基づいているそうです。すごく夢があるなあと思いました。
学生さんがJAXAと一緒に研究するといえば、『さばの缶詰 宇宙へいく』を思い出しました。小浜水産高校(若狭高校と統合)の生徒が地元の名産であるさばの缶詰を宇宙食にしよう!と代々研究を重ね、ついに14年後に野口聡一宇宙飛行士が実際に宇宙で食べてくれた、というできごとを書いたノンフィクションです。
高校生でこれだけの経験ができたら、研究の楽しさ、試行錯誤の楽しさ、やり遂げることの興奮を身をもって学ぶことができるだろうなと思いました。
ラストは感動してうるうるしてしまいました。読んでよかったです。伊与原さんの他の作品も読んでみたいです。
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