辻堂ゆめさんの作品を読むのは『卒業タイムリミット』に続いて2作目です。Xで読了ツイートをよく見かけていたので読みました。
髪を振り乱して部屋に飛び込んでくる人影が、目に映った。
テーマは教育虐待とネグレクト。親に理不尽な要求をされ、コントロールされているのだけど、それが異常なことだとはなかなか気づけない。それが普通だと思ってしまうし、親は自分のことを愛しているから、親の期待に応えなければ、自分が親を助けなければ、と思ってしまう。
そんな遠いようで似たような境遇の同級生二人が、自分たちの家庭は異常だということに気づいて、「復讐」をする。
大学は東大しか認めない、学年1位を取って当たり前。勉強のスケジュールや成績を全て管理され、ひどい時には部屋に鍵をかけられたり監視カメラをつけられる。異常です。
辻堂ゆめさんは東大出身ということもあり、受験勉強の描写は妙にリアルでした。私も地方ですが国立大医学部に現役合格しているので、受験勉強は今考えてもだいぶ頑張ったなとは思います。でも、この染野くんのような親じゃなくて本当に良かったと思いました。
むしろ東大生は言われなくてもやるような子とか、ガリガリやらなくても点が取れるような子が多いんじゃないでしょうか。こういうやり方は逆効果というか。だから逆パターンで極端な親にしたのかなと思いました。
医療と同じく、教育も自分の経験で語る人が多いように思いますが、変数が多すぎて、同じようにしたら同じようにいくとはとても言えないと思います。それなのに親が「自分はこうやってうまく行ったからお前もこうやれ」と子供に押し付けてしまいがち。中学生の子供を持つ私も気をつけないとなあと反省しながら読みました。
仕事でもよく虐待について関わることが多いので、子供はどんなひどい親でも愛している、選択肢がない、それが普通と思ってしまう、という感覚はすごくよくわかります。でも、どんな子供も、我慢するため、親の世話をするため、否定されるために生まれてきたんじゃない、ということは強く伝えたいとも思いました。
「私たちは、親を憎んでるんじゃなくて、”愛してる”。そして愛されようとするのを止められないんだ。だって、生きるためには親に好かれないといけなかったから。母乳を飲んで、ご飯を食べさせてもらわなきゃいけなかったから。その本能は、いつまで経っても消えない。成長して親の助けが要らなくなっても、この人に愛されるなんて絶望的だと頭の片隅では分かっていても」
p208
なんで今まで分からなかったんだろう。私たちがこの世界に生まれてきたのは、頑張るためでもなく、我慢するためでもなく、苦しむためでもなかったんだって。別にそんな思いをしなくても、人生は成り立つんだって。
p245
辛い描写も多かったですが、ラストは希望を持たせてくれて良かったです。
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