『名探偵は嘘をつかない』阿津川辰海

本のこと

大好きな阿津川辰海さんのデビュー作です。

光文社文庫から出ているのですが、いつもパトロールしている近くの書店何軒かには置いてなくて、12月31日に書店納めとして行った丸善で発見して購入しました。

Bitly

探偵が現場に着く頃には、全ては手遅れなのである。

想像していたよりめっちゃ分厚かった・・・こんな大作がデビュー作だと・・・?

その時点でビビってしまいましたが、数日寝かせた後お正月休みに思い切って読み始めたら1日で一気読みでした!

「探偵」が国家資格として認められている世界。名探偵の阿久津透の助手として働く火村つかさは、阿久津に兄の明を見殺しにされたことから阿久津を恨み、その元を離れていた。

19年前に起きた少女殺人事件の時に、犯行を自首した中学生時代の阿久津は、裁判でいきなりその証言を覆し、自分は犯人ではないと主張。自分の推理を展開し、無罪となる。

自白を強要されたと名指しされた黒崎もまた、阿久津を恨んでいた。これまでに阿久津が関わった事件で阿久津に恨みを抱いている者たちが協働して、阿久津を本邦初の探偵弾劾裁判にかける。

前例がないと言うことでモデルケースとして山中のセミナーハウスで非公開で行われることになった弾劾裁判。

そこで起こる新たな事件。果たして19年前の事件の真相とは・・・

探偵の弾劾裁判、密室殺人、そしてなんと転生、という一つ一つで十分に思える要素がてんこ盛りなんだけど、ちゃんとそれが一つの物語として成立しているところがすごい。

「君にはこれから、いかなる真実に気付き、それに絶望しようと、歩みを止めぬ覚悟があるかい?」

p286

これは『紅蓮館の殺人』などでも貫かれていた探偵の矜持なのですが、デビュー時からの阿津川さんの信条なのだなあと思いました。

本作品は、光文社の新人発掘プロジェクト「カッパ・ツー」の受賞作に選ばれて、阿津川さんがデビューすることになりました。

あとがきと、石持浅海さんの解説に、その時の経緯が書かれています。

「カッパ・ツー」というプロジェクトは、「応募原稿を完成版と捉えて減点法で評価するのではなく、『作者ができる範囲で修正して最も面白くなる作品』という加点法で選考する」システムだそうです。

受賞者には選考委員である東川篤哉さんと石持浅海さんが修正点についてアドバイスをしてくれます。

本作品にも、当初は転生という設定を残して他の要素は削ったほうがおもしろくなる、という指摘がされたそうですが、阿津川さんは、もともとの設定は全部残したままでさらにもう一つの設定を加えて、整合性のある物語に作り直してきました。

そうしてできたこの作品、本当にすごいデビュー作でした。さすがです。

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