『月と蟹』道尾秀介

本のこと

道尾秀介さんの作品では『カラスの親指』が好きです。そんな道尾さんの直木賞受賞作品『月と蟹』を読みました。

Bitly

「カニは食ってもガニ食うなってな、昔っから言うんだ」

小学生の慎一は春也と二人の秘密の場所へ毎日遊びに行く。そこでは水の溜まりにヤドカリを放って、育てているのです。

二人はヤドカリの貝をライターで炙って本体を出す遊びをしたり、ヤドカリを燃やして願い事をする儀式を思いついたりします。

ヤドカリを育てながらもこうやって残酷な遊びにも使う。子供の時ってこういうことしてたなあ、と自分の昔を思い出したりしました。

二人は転校生ということもあってクラスの他の子からなんとなく避けられています。酷いいじめというほどではないかもしれませんが、からかいの手紙が机に入っていたりする。

そんな中、クラスの鳴海という女子もこの秘密の場所に誘って一緒に遊ぶようになり、慎一と春也の関係にも少し変化が起きます。

また、慎一にも春也にも鳴海にも、それぞれ家庭の事情があり、悩みがある。お互いにそれを相談したりするわけではないけど、なんとなく役に立ちたいという思いがあり、でもそれが空回りしてしまって余計悩む。大事な友達と思っているけど、秘密にしていることもあったりして。

自分も子供の頃経験したように、この作品の中でもいろんな経験をした子供が少し成長していく様子が細やかに描かれていたように思いました。

慎一が春也と遊んでいる時、くだらないことがツボにハマって大笑いして、走り出したくなるほど楽しい気持ちになる。

悩み事があるけど家族には言い出せなくて、全然違うことを喋るけど不自然に口調がキツくなって、それでも誤魔化そうとすると涙が勝手に出てくる。

ヤドカリの赤ちゃんが生まれてる!と喜びながらも、話しているうちに無意識にその赤ちゃんを手で掬っては服になすりつける。

そういう細かな描写がすごく印象的でした。

道尾秀介さんは、作品によってイメージがすごく違うんだなあ。他の作品も買っているものがいくつかあるので、読むのが楽しみです。

『カラスの親指』のレビューはこちら。

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