呉勝浩さんの『爆弾』がおもしろかったので、他の作品も読んでみようと思い購入。吉川英治文学新人賞、日本推理作家協会賞受賞作です。
何の前提もなくいきなり、スワンという郊外大型ショッピングモールで無座別銃撃事件が起きるシーンから始まります。死者21名、重軽傷者17名。実行犯の2人は現場で自殺。冒頭から度肝を抜かれました。
現場に居合わせて、生き残った高校生のいずみにもとに招待状が届きます。全部で5名が「お茶会」に招待され、毎週そこで当時自分たちが見聞きした者について話をすることになります。
参加者には謝礼も出る。
企画者の目的は、菊乃さんというおばあさんがどのようにして現場で亡くなったのかを明らかにすること。
事件当日の10分ごとにそれぞれの記憶を語っていきますが、その5人には秘密がありそうで・・・
いやー、おもしろかったです。冒頭の事件のシーンは胸が悪くなりそうでしたが。
高校生のいずみは生き残ることができたけれど、それはたまたまで、他の人と同じように殺されていてもまったくおかしくなかった。同じように怖い体験をしたし、その後の生活にも影響が出ている。
それなのに、世間からは他の人を見殺しにして自分だけ生き残ってよく平然としていられるな、などと責められる。その理不尽さには腹が立ちました。
p240
てっきり、自分は被害者なのだと思っていた。だけど、そうじゃなかった。双海親子と、自分たちはちがったのだ。
初め、事件の悪は犯人たちだった。次に警察がやり玉にあがった。対応の遅れが被害拡大につながったんじゃないかと、マスコミはこぞって書き立てた。三番目の的になったのが、山路を筆頭とする警備員たちだ。
そうしたバッシングに人々が飽きはじめたタイミングで、四番目の新鮮な悪として、いずみはスポットライトを浴びた。
いずみがショッピングモールで待ち合わせしていた同級生との間で何があったのか。真相は予想外のもので、思わずため息が出ました。
みんなつらい。生き残った人も、自分があのとき違う行動をしていたらあの人は助かっていたんじゃないか、犯人を止められたんじゃないか、と自分を責めてしまう。
そしてこれからもずっとその経験や気持ちを抱えたまま生きていかなければならない。そのような人たちがまわりから責められるなんてことがあっていいわけがない。
p340
「その場その場でさ、正しくてもまちがってても、決断をくだしていく以外、どうしようもないじゃない」
そのとおりだった。いずみも浜屋も、あの日あの場であの瞬間、自分が最善と感じた道を選んだのだ。熟考とはほど遠い、反射のような決断ではあったけど、でも少なくとも、誰かを犠牲にしようという悪意は、なかった。(中略)でも、たぶん、浜屋は気づいている。(中略)できたかもしれないという可能性。やりようがあったんじゃないかという自分自身への疑い。
ああ、みんなつらいなあ。でもラストのシーンにはかすかな希望がありました。いずみちゃん、頑張れ。私も応援しています。
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