『透明人間は密室に潜む』阿津川辰海

本のこと

読書日記での膨大な読書量とわかりやすい解説に絶大な信頼を置いている阿津川さんの短編集です。

表題作は、透明人間病というものが存在し、透明人間が普通に存在する世界での物語。

透明人間が生活するには、そして殺人をするときにはどんなことに気をつけないといけないかが細かく想像できて楽しかったです。

「六人の熱狂する日本人」は裁判員としてたまたま集まった六人が偶然にもあるアイドルのファンだったことがわかり、議論がどんどんおかしな方向へ進んでいく・・・

あとがきで著者が同じような設定の『キサラギ』という映画が大好きだと書いていたので、DVDを買って見てみました。

あまり売れてなかったアイドル如月ミキの1周忌追悼式に集まった5人が、故人を偲んで会話しているうちにミキちゃんは自殺ではなく他殺だったのでは、というかこの中に犯人がいるのでは、という話になり、どんどん迷走していくというストーリーです。めちゃくちゃおもしろかったです。

「盗聴された殺人」では、人並外れた聴力をもつ女性・山口美々香と探偵・大野が登場します。

耳がいいと言えば、同じ著者の『録音された誘拐』を思い出したのですが(私はまだ読んでいませんが)、やはり本作に登場する二人が主人公の小説でした。初出はこの短編だったんですね。

「第13号船室からの脱出」は、クルーズ船内で開催されたリアル推理脱出ゲームをテーマにした推理中編です。主人公は高校生。ラストのどんでん返しには驚きました。

阿津川さんの小説は、あとがきも大好きです。

ものすごい読書家の阿津川さんだけあって、これがどの作品のオマージュとして書かれたのか、同じようなテイストの作品にどんなものがあるか、など、詳しく書いてくれているので、紹介された本も読んでみたくなり、次々と本が繋がっていく感覚を味わえます。

短編ミステリを書くのは難しいだろうなあと思います。コンパクトな分量でキャラクター設定から事件の概要、推理、解決、その他何らかのメッセージ性などを織り込まないといけないだろうから。

ですが、この短編集にはまったく違うテイストでそれらの要素が全て備わっています。さすがです。

とにかく膨大な読書量と考察の深さに圧倒される、最強のブックガイド(と私は思っている)阿津川辰海さんの「読書日記」。レビューはこちら。

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