『天上の葦』太田愛

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大好きな太田愛さんの鑓水・修司・相馬の3人組シリーズ。『犯罪者』『幻夏』に続く第3弾です。

鑓水と修司のもとに、前作での天敵、磯部議員の秘書・服部がやってきて、渋谷のスクランブル交差点の真ん中で死亡した老人が、最期に何を指さしたかを調査するよう依頼される。

同時に、停職中の相馬は公安警察から行方不明になった山波という公安警察官を探すよう非公式に命じられる。

この二つの依頼は早々にクロスして、3人は一緒に調査を進めます。瀬戸内海の小島に何かがあるらしい。

私は著者の太田愛さんと同じ香川県出身ということもあり、瀬戸内海の島のご老人たちの様子や、お祭りなど伝統を大切に守ること、住民たちがそれぞれの家庭事情を全部知っていること、出かけるときに鍵をかけないこと、法事の時は地域の人がみんな集まってご飯の準備をすることなどなど、すごくリアルに想像できて、ノスタルジックな気持ちにもなりました。

渋谷で亡くなったご老人と、この島のご老人たちの間にどんなつながりがあるのか、少しずつ明らかになっていくところはさすが。

また、ラスト一気に反撃する3人の作戦には、ずっとドキドキさせられっぱなしでした。心臓に悪いよ・・・

太田愛さんといえば、ミステリーの中にも社会的な問題提起がされていますが、今回は権力者が報道を規制することの危険性について、が強く伝わりました。

戦争中にも、最初は小さな火程度だったのがあっという間に大きくなって、誰も消すことができなくなってしまった。

最初は変化も小さいからみんなあまり問題だと思わないけど、気づいた時には誰も止められなくなっている、その危うさがすごく怖かったです。

最近も、国会で放送法に関する行政文書が大きく問題となっていましたが、まさにこれは「小さな火」の一つなんだろうと思いました。

ひとつの国が危険な方向に舵を切る時、その兆しが最も端的に現れるのが報道です。報道が口を噤み始めた時はもう危ないのです。次第に市井の人々の間にも、考えたこと、感じたことを口にできない重苦しい空気が広がり始める。非国民、国賊などという言葉が普通に暮らす人々の間に幅を利かせ始めるのは、そういう時です。(中略)同じようなことが繰り返されながら、何年か、あるいは十数年のうちに、誰もが想像もしなかったような事態に至る。責任を取るのは常に次の世代です。

下巻p181

上下巻の結構なボリュームでしたが、おもしろくて2日間で一気読みでした。

『犯罪者』のレビューはこちら。

シリーズ第2弾『幻夏』のレビューはこちら。

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