『みみずくは黄昏に飛びたつ』川上未映子 村上春樹

本のこと

川上未映子さんの『ヘヴン』を読んで、そういえば村上春樹さんとの対談本も持っていたんだったと思って再読。

単行本が出てすぐ買って読んだのですが、今回文庫版を買って読みました。

文庫版には、単行本でのインタビューの2年後に行われた「文庫版のためのちょっと長い対談」が収録されているので、単行本で持っていても文庫を買い直す価値があると思いました。

再読でしたが、すごくおもしろく読めました。

まず川上未映子さんがめちゃくちゃ村上春樹さんのファンというのが伝わってくる。オタクレベルに著作を読み込んでいて、質問が鋭いし、気になることは何度も聞いている。

でも、村上さんは「そうだっけ?覚えてないな」と答えることも多くて、川上さんがまじっすか!?と驚くところもおもしろかったです。登場人物のセリフも覚えてないし、名前もあやふや。

とくに、『騎士団長殺し』で「イデア」が出てきた時に、川上さんはプラトンを勉強してインタビューに臨んだのに、村上さんは「プラトンのイデアがどんなものか知らない」と言って川上さんがたまげる場面とか笑ってしまいました。

印象に残った内容。

「なんか変てこなものだけどこの人が悪いものじゃないと言うからには、悪いものじゃないだろう」という信用取引が大事。

という村上さんの発言、これはよくわかる。

私も、村上春樹の本はほぼ全部持っているし、新刊が出たら必ず買って読みます。読んで理解できたかと言われると、よくわからなかったけどおもしろかった、ということが多いけど、読んで損した、時間とお金の無駄だった、と思うことはない。

そしてまた新刊が出たら必ず買うし、何年か後に読み直してみると今度は理解できるところが増えているかもしれない。それが「信用取引」と言うものなんだなあと。

あと、川上さんが『乳と卵』で芥川賞を受賞した時、女性ということをことさら言われたのがすごく嫌だったという話をしていた。

本書では川上さんは基本的にインタビュアーで、川上さんが質問して村上さんが答える、というスタンスだったのに、ここのところだけ川上さんがスイッチ入ったみたいにブワーって話していたのが印象的でした。

だいたい女流って何なんだと。自分たちは自覚するまでもなく当然の確固たる大地としてあって、女はそこらをちょろちょろ流れる小川か何かだという意識がまだあるんですよ。

p287

私も「女医」という言葉を見たり言われたりするとすごく違和感を感じます。

「男医」とは言わないじゃないか、と。

それから、村上さんは細かいところまで何度も何度も原稿に手を入れ書き直すことはよく知られています。これだけ世界的な作家さんでありながら、文章をいかにわかりやすくしていくか、つねに探究を続けていると言います。

僕にとっては文章がすべてなんです。物語の仕掛けとか登場人物とか構造とか、小説にはもちろんいろいろ要素がありますけど、結局のところ最後は文章に帰結します。文章が変われば、新しくなれば、あるいは進化していけば、たとえ同じことを何度繰り返し書こうが、それは新しい物語になります。文章さえ変わり続けていけば、作家は何も恐れることはない。

p236

他にも、興味深い発言がたくさんでした。

職業として40年も小説を書き続けるって本当にすごいことだなと。しかも世界中でこれだけたくさんの人に読まれる本を作り続けるってものすごいこと。

改めて、そんな村上春樹さんの新作をリアルタイムで読める同時代に生まれて本当に幸せだなあと思いました。

村上春樹の作品もまとめて読み返したい欲が出てきました。またさらに時間が足りなくなるわ・・・

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