以前『幻夏』を読んでめっちゃよかったので、次に『犯罪者』を読みました。
3人の主人公鑓水、相馬、修司が登場するシリーズ3部作となっているのですが、実は私が最初に読んだ『幻夏』は2作目で、この『犯罪者』が1作目になります。
順番通りに読んだ方がよかったかなとちょっと思いましたが、実際に読んでみると、この順番でも全然問題なかったです。むしろ、あの3人の過去にはこんな事件があったのか・・・とそれはそれで感慨深くて楽しめました。
昼間の駅前で4人が刺殺される通り魔事件が発生。修司も襲われたもののただ一人生き延びることができた。犯人はすぐに見つかったが、修司の感覚ではそいつが犯人とはどうも思えない。
しかも病院にいた修司のもとに謎の男がやってきて、
「あと十日。十日、生き延びれば助かる。生き延びてくれ。君が最後の一人なんだ」
と必死に話しかけてきた。
それだけ言い残していなくなったこの人は誰?最後の一人ってどういうこと??
この事件には何か裏がある。はみ出し者の刑事・相馬とその友人・鑓水のもとでかくまわれている修司、3人は事件の裏を調べ始める。
それと同時に進む、政治家や大手食品メーカーを含む財閥グループのストーリー、それらが少しずつ絡まりあって徐々に事件の全体像が明らかになっていく・・・
文庫上下巻の大作ですが、ドキドキが止まらなくて2日で一気読みでした。車の移動中もAudibleで聴いてたし。
3人のキャラがいいですね。
「犯罪者」とは誰なのか。
直接手を下して人の命を奪うのはもちろん犯罪。大企業の商品が健康被害を与えてしまったのは犯罪?
鑓水たち3人も調査の過程で人の家に勝手に入ったり物を壊したり取っていったり犯罪ともいえることをたくさんやっています。
そして悪いやつら(大企業の幹部や政治家)は当然もっと大きなことをやってたくさんの人の人生をめちゃくちゃにしているのですが、その全員が果たして犯罪者として裁かれるのでしょうか。
当人たちは犯罪を犯しているという自覚もない。これくらいの犠牲は仕方ない、くらいに思っている。見ている範囲が大きすぎるというか、一人一人の人間やその人生のことがまったく目に入っていない。なんだかなあ。という気持ちになりました。
でも鑓水、相馬、修司、真崎、中迫のように、自分自身の得になるわけでもないのに、命をかけて人を助け、悪事を明らかにしようとする人もいる。
鳥山、小田嶋のように、自分の利益のためにというのがモチベーションではあるけど、職を失うかもしれないリスクを冒してまで、頼んだことを最後まで責任持ってやってくれる人もいる。
絶望的に恐ろしい殺し屋に執拗に追われる恐怖の中で、それは救いでした。
自分がこう動いたら相手はきっとその意味を理解してくれるだろう、という信頼関係っていいなあとも思いました。
そして、とにかく生き延びるということ。
一方的に理不尽に命を絶たれてしまった人たちがたくさんいる中で、残った人間はつらくても生きていかなければいけない。
生き延びた人間は生きなければならない。
下巻p436
最後の遺族へのインタビューもそういうメッセージなんだろうな。
そしてエピローグで修司が真崎に思いを馳せるシーンは感動しました。
いやー、太田愛さん、すごい。
この余韻を味わいつつ、次は続編の『天上の葦』を読みたいと思います。
『幻夏』のレビューはこちら。
朝:ベースブレッドメイプル
昼:エビフィレオセット
夜:ポッキー
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